親の年収は子に引き継がれるのか。数字を調べてわかった「中継地点」の話

「結局、生まれた家でだいたい決まってしまうんじゃないか」

自分の子どもたちの顔を見ながら、ずっとこれが気になっていました。実家が太い人には勝てない気がする、でも「そんなことはない」とも言われる。どっちが本当なのか。感覚で言い合っていても埒があかないので、数字を調べることにしました。

今日はその話をします。結論を先に言うと、引き継がれます。ただし、直接ではありません。

目次

「3分の1」と「3分の2」という現実

経済学に「世代間所得弾力性」という指標があります。親の所得が1%上がったとき、子の所得が何%上がるか。1に近いほど固定的、0に近いほど自由という目盛りです。

日本の推計値は、おおむね0.34あたりとされています。

この数字を具体的に置き換えてみます。親の年収が2倍違う家庭を2つ並べたとき、その子どもたちの年収の差は平均で26%程度になります。2倍にはならない。でもゼロでもない。

そしてもうひとつ、この数字から読み取れることがあります。弾力性0.34というのは、親の所得で説明できるのが3分の1程度という意味でもあります。残りの3分の2は、親の所得では説明されていない。本人の選択、運、時代、出会った人。その空白が、まだそこにある。

「生まれで決まる」も「努力次第」も、どちらも極端です。実際の数字は、その中間にあります。

日本で起きているのは「富裕の連鎖」だった

調べていていちばん意外だったのが、これです。

日本の研究では、「貧困の連鎖」よりも「富裕の連鎖」のほうが強いと報告されています。所得を4つの層に分けて世代間の移動を見ると、いちばん動きが少なかったのは最上層でした。

つまり、下から上がれないというより、上から落ちてこない。

言われてみると腑に落ちます。上に留まるための手段は、教育でも人脈でも資産でも、いくらでもある。逆に下から上がる手段は限られている。この非対称が、そのまま数字になって出ていました。

「努力すれば這い上がれる」という話はよく聞きますが、データが示しているのは、這い上がる話よりも、落ちない仕組みが先に整っているということでした。

親の年収は「直接」流れてくるのではない

ここが、この話でいちばん重要だと思っています。

親の所得が子の所得を直接決めているわけではありません。実際に効いていた経路は、こうでした。

父の所得 → 子の学歴 → 子の職業 → 子の所得

途中に、学歴と職業が挟まっています。親の年収がそのまま子の口座に流れているのではなく、教育という中継地点を通っている。

数字を見る前は「結局は金だろう」と思っていました。でも実際に調べたら、金は経路の入口にあるだけで、途中に人と学びが挟まっていた。

中継地点があるということは、そこに介入できるということです。いちばん左にある「親の所得」は変えられません。でも途中にある学歴と職業には、後からでも手が届く余地があります。

祖父の影響は、世代を経るたびに薄まっていく

3世代にわたって調べた日本の研究もあります。

祖父と父の間の弾力性は0.35。祖父と孫の間は0.147。そして重要なのは、祖父から孫への影響が、ほぼ全部「父を経由している」とわかったことです。祖父から孫へ直接飛ぶ経路は、ほとんどありませんでした。

つまり影響は、世代を1つ飛ばすたびに薄まっていく。3世代目には半分以下になります。

「家柄」のようなものが何代も直接効き続けるイメージがありますが、データはそうなっていませんでした。影響は確かにある、でも薄れていく。これは、固定されたレールの上を走らされているわけではないことを示しています。

移動しやすい地域に共通していた5つのこと

アメリカで、地域ごとに所得の移動しやすさを比較した大規模な研究があります。同じ国の中でも、地域によって上に行きやすさが大きく違っていました。

移動が大きい地域に共通していたのは、次の5つです。

  • 居住地の分断が少ない
  • 所得の格差が小さい
  • 小学校の質が高い
  • 地域のつながりが強い
  • 家庭が安定している

目を引くのは、大学ではなく小学校が入っていること。介入するなら早いほど効く、ということかもしれません。

そして、地域のつながりが入っているのも見逃せません。お金でも学歴でもなく、人との関係が移動に効いている。これは、個人の頑張りだけでは語りきれない部分です。自分がどういう場所に身を置くか、どういう人と関わるか。それが思っているより大きく効いている。

自分の「式」を、今日一度確認してみる

この話を知ってから、自分の状況を一度この式に当てはめてみました。

親の所得 → 自分の学歴 → 自分の職業 → 自分の所得

いちばん左は変えられません。でも途中にある学歴と職業には、まだ手が届きます。転職でも、資格でも、業種を変えることでも。経路の途中を動かすことは、今からでもできる。

そして子どもに何かを渡したいと思うなら、渡すのはお金だけではないということも、この数字が示しています。データが指していたのは、教育と、地域と、人とのつながりでした。お金は、そのうちのひとつにすぎません。しかも、いちばん直接的ではない。

自分はまだ途中にいます。でも「途中にいる」ということ自体が、まだ動けるということだと思っています。

まとめ

  • 日本の世代間所得弾力性は約0.34。親の所得で説明できるのは3分の1程度で、残りの3分の2は親の所得では決まらない。
  • 親の年収は子の所得を直接決めるのではなく、学歴と職業という中継地点を通っている。中継地点には後から介入できる余地がある。
  • 移動しやすい環境に共通していたのは、お金よりも小学校の質と地域のつながりだった。どこに身を置くかが思った以上に効く。

次にやること

  • 「親の所得→自分の学歴→自分の職業→自分の所得」の式を自分の状況に当てはめ、今から動かせる中継地点を1つ特定する。
  • 子どもの環境を見直すとき、お金以外の要素(学校の質、地域のつながり、家庭の安定)を一度書き出してみる。
  • 「生まれで決まる」でも「努力次第」でもなく、3分の2の空白があることを、自分の言葉で誰かに話してみる。
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