やりたいことを全部書き出す——「いくらあれば足りるか」に自分で答えを出すまで

「いくらあれば足りるんだろう」と、ずっと思っていました。

答えられないまま、何年も過ぎました。年収は少しずつ上がっていました。貯金の残高も増えていました。それでも、なんとなく足りない感覚だけが消えなかった。老後2,000万円という数字はニュースで何度も見ましたが、「自分の話」には全然ならなかった。

しばらくは「計算が苦手だから」だと思っていました。でも、あるとき気がつきました。計算が苦手なんじゃなくて、終わりのない目標を持っていたからだったんです。

目次

終わりがない目標は、定義上、達成できない

「もっと欲しい」という感覚には、ゴールがありません。現状より多ければ「もっと」が更新されるだけです。年収が上がれば上がった先の生活水準が基準になる。貯金が増えれば増えた分だけ心配の対象が広がる。これを延々と繰り返していました。

足りない感覚が消えないのは、当然でした。足りる状態を一度も定義していなかったんですから。

そこで一度、きちんと計算してみることにしました。やりたいことを全部書き出して、ひとつずつ値段をつけて、必要な資産額を逆算する。平均額も統計も使わず、自分の数字だけで。

出てきた金額は、想像よりずっと大きかった。でも、この作業でいちばん変わったのは金額そのものではなくて、その数字が多いのか少ないのかを、自分で判断できるようになったことのほうでした。

なぜ書き出せないのか——頭の中に「予算担当」がいる

最初に手を動かしてみて、すぐに詰まりました。ノートを開いてペンを持ったはいいものの、「いい部屋に住みたい」と書こうとした次の瞬間、頭のどこかが家賃を計算し始めるんです。「まあ、現実的には……」と、書き終える前に取り下げてしまう。

これを何十年もやってきたと気づいたとき、会議の光景が頭に浮かびました。案を出すたびに「予算が」「前例が」と挟んでくる人がいると、10分で誰も発言しなくなりますよね。あれを、頭の中で一人でやっている状態でした。

アイデアを出す役と、審査する役が同時に動いている。だから何も出てこない。

そこで、ルールをひとつだけ決めました。

値段と実現可能性は、いっさい考えずに全部出す。出し切ってから、はじめて値札をつける。

順番は、出す→数える→それから値札。これだけで、出てくる量がまるで違いました。書くのをやめる理由が、一時的に存在しなくなるからです。

7つの欄を用意する理由

「思いつくままに書く」だと、必ず偏ります。試したことがあるので分かります。住まいと遊びの話ばかりが増えて、時間の使い方とか、人生の終わり方の話が丸ごと抜ける。

そこで、7つの欄を用意しました。

  • 暮らしの中身(住まい・食・日常のお金)
  • 時間(どう使いたいか、減らしたい拘束は何か)
  • 遊びと身につけるもの(趣味・体験・学び)
  • 手放したいこと(やめたいこと・逃げたい状況)
  • 家族とパートナー(一緒にやりたいこと・残したいもの)
  • 親と実家(将来の備え・関わり方)
  • 恐怖の側(失いたくないもの・最悪の想定)

7番目を入れているのには、はっきりした理由があります。欲求は、裏返しでも出てくるからです。「失いたくないもの」を書くと、1〜6では書き漏らしていたものが拾えます。「健康を失うのが怖い」と書いたとき、はじめて「そういえば医療費のことを何も考えていなかった」と気づきました。

実際に手を動かす——欄ごとの書き方

紙でもスプレッドシートでも、どちらでも構いません。ただ、一気にやろうとしないほうがいいです。7つの欄を一日で埋めようとすると、後半が雑になります。2〜3日に分けて、欄ごとにやる。

書くときのコツは、動詞から始めることです。「旅行」ではなく「年に一度、海外に行く」。「いい家」ではなく「子どもが走り回れる家に引っ越す」。名詞で書くと抽象的なままになって、あとで値段がつけられなくなります。

書き終えたら、ひとつずつ値段を調べます。ここで初めて、現実と向き合う。旅行なら航空券と宿の相場を調べる。引っ越しなら家賃の目安を調べる。「なんとなく高そう」で止まらず、実際の数字を出す。これをやるだけで、頭の中の解像度がかなり上がります。

前提が崩れたとき、どうしたか

この作業を回してみて、途中で前提が2回崩れました。

1回目は、欄を書き終えて合計を出したとき。想像より大きい数字が出て、「これは無理だ」と思った瞬間、また審査員が戻ってきました。「現実的に考えると」と言いながら、書いたものを削り始めていた。気づいて、一度止めました。削る前に、「これが全部叶ったら、自分はどんな毎日を送っているか」を先に書いた。その絵を持ってから、もう一度数字を見たら、見え方が変わりました。

2回目は、家族に関わる欄を書いていたとき。自分だけの話で考えていたものが、実は家族の話でもあると気づいた。子どもの進路、親の介護、パートナーのやりたいこと。ここは一人で完結しないので、欄をいったん保留にして、後から話し合う時間を取りました。全部を一人で決めようとしなくていい。

まとめ

  • 「いくらあれば足りるか」に答えられないのは、計算が苦手だからではなく、終わりのない目標を持っているから。
  • 書き出す順番は「出す→数える→値札」。値段を考えながら書こうとすると、何も出てこなくなる。
  • 7つの欄を使うと、住まいや遊び以外の「恐怖の側」や「時間の使い方」まで拾える。

次にやること

  • 紙かスプレッドシートに7つの欄を作って、まず「暮らしの中身」だけ書いてみる。
  • 書くときは名詞ではなく動詞から始める(「旅行」ではなく「年に一度、海外に行く」)。
  • 全部書き終えてから値段を調べる。削るのは、合計を見てからではなく、絵を描いてから。
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

目次